国境が開かれた日、初めて見る物に声をたてながら2人で歩いた道は、化け物が闊歩するだけの寂しい道になっていたよ 空に浮かぶ叡智の結晶、知者の都市　　ジュノー 見慣れたミッドガルトの都市とは異なった、姿勢を正したくなるような静寂に包まれた都市に久々に足を踏み入れる 木々が燃えるように色づく頃、まだ世界が無限だったころの思い出を引き摺って、僕は毎年ここを訪れる 日頃の駆けるような歩調ではなくゆっくりと、去年訪れた時と、初めて訪れた時と姿をかえた街並を観察して歩く 無意味なそれらを繰り返し、品揃えの変わることのない店先を眺め、身体が冷え切った頃に目的の場所へと向かう 舗装された道を少しそれたところにある、視界が青空に埋め尽くされる高台へと 少しだけ目線をおろすと霞かかった都市の入り口が見えた いくつかの建物、広場、それと空 どれを眺めてみても、懐かしさの中に隠れる一欠片の切なさが僕を責める さえぎるものがなくなって、ミッドガルドより幾分冷たい風が無遠慮に僕の中を通り抜けてゆく そして夏の間に溜め込んだ熱を消し、少しずつ僕の落ち着きを奪ってゆく 膿んだ僕の中を　過去から吹く風が　通り過ぎる 思い出すのはあの懐かしい日々 なんてことはないと思っていた、けれど振り返ってみるといつまでも輝きを失わない日々 今この眼に映る景色はあの頃と何もかわっていないように見えて 違うところがあるとすれば、もうあの頃のような鮮やかさはなく、ただただモノトーンにしか映らないと言うことくらいだろう 今は、君にも僕にも居場所があって、それを与えてくれる仲間がそれぞれに居るけれど。 僕は昔のように君に救いの手を求めないけれど。 それでも君を強く思う時があるんだ。無性に会いたくなる時が、助けて欲しくなる時があるんだ。 それでも、別々の道を選んだのは僕だから、君の影を追う日々でも君に会いには行かないよ。 行けないよ。 何であの時君の手を取らなかったか不思議でならないけど、きっとこれで良かったんだよね。 君には彼がいて、僕には彼等がいる。 これはもう、色褪せてしまった思い出だけど、きっと死の間際でも強く思いだすことだから。 だからまた、今年も君との思い出を見にここへ来るよ。 「ワープポータル」 きつく握り締めた石が砕け、足下に浮かんだ魔方陣に乗る直前、ほんの一瞬だけ見えた街並を、君と並んで見た時のままの色をたたえるこの都市を、僕は忘れない。 ほんとに、何故あの時あの手を取らなかったのか自分で自分が謎です。大好きだったのに。どれだけ好きでも絶対的存在には敵わないと言うことですね。多分。