湯気のたちのぼるカップを押し付け、向かい側にあった椅子を引き摺り奴の隣りに座った。
両手でカップを持ち、それをじっと見詰める奴の姿は、普段よりはるかに小さく見えた。

少し居心地の悪い沈黙を流れるままにし、待った。
無理矢理言わせることも出来るが、それでは意味がないのだ。

「怖いんだ・・・・。」

冷めたカップをテーブルに置き、両の手を組んで項垂れて奴は言う。

「怖いんだ、またあの時みたいに俺のせいで失うのが・・・・たまらなく、怖いんだ・・・。」

沈んだ声、きつく閉ざされた目、僅かに震えている身体、それは懺悔をしに、あるいは救いを求めて、俺の所、教会に駆け込んでくる人達の姿とかぶって見えた。

奴が、まだ冒険者として幼かったころのあの出来事をトラウマとして抱えているのは知っていた。
今回の仲間の怪我、自分を庇い怪我を負うという行為が奴にどれだけ動揺を与えるかなど、安易に想像がつく。

常日頃そんな素振りは欠片も見せないが、こいつは誰よりも繊細にできているのだ。

「もう二度とこんなことがないわけじゃない。寧ろあいつの性格を考えると、これから何度でもお前を庇うだろうな。」
「あぁ、分かっている。・・・・だから怖いんだ。あいつは俺みたいに体力があるわけでも、お前みたいにカードの恩恵を充分に受けられるわけでもないんだ・・・。」

人目を避けるように身につけている十字架を握りしめ、奴は再び震えた声で言った。

「・・・・・・怖いんだ。」




もう、俺のせいで人が倒れるのは嫌なんだ


俺は・・・・自分が盾となってでも人を護るべき騎士なのに ――